活動内容

環境問題に取り組む市民・事業者・行政のパートナーシップ組織「とよなか市民環境会議(会長 豊中市長)」では「とよなかエコ市民賞」を創設し、2007年度から市内で環境負荷の低減や、自然との共生、快適環境の創造といった取り組みの中から、継続した活動実績や顕著な功績が認められる団体の活動を表彰しています。今回取材にうかがったのは、2010年度のエコ市民賞を受賞した大阪府立刀根山高等学校の生物エコ部・環境委員会です。プライベートでも自然保護活動をしている松本先生の指導のもと、生物エコ部では、学校敷地内の通称“裏山”や“ビオトープ池”の生息生物の調査・分析や希少植物の保存活動など、環境委員会では、屋上の緑化やごみの分別回収などに取り組んでいます。


刀根山高校があるのは大阪大学薬学部の跡地です。グラウンド西側の草地部分はかつて薬草園だった場所で、小児マヒの後遺症の治療薬の原料となるヒトツバハギやキツネノカミソリ、不眠症やむくみなどに効き目があるというノカンゾウなど、豊中市ではここにしかない野草が生育しています。また、春にはシロバナタンポポとカンサイタンポポが、可憐な花をたくさん咲かせます。また“裏山”もこの地域の里山の名残で、アカマツが比較的多く、シュンランやアキノキリンソウといった、今となっては市内で希少な存在となってしまった植物や昆虫など、多様な生物の生息場所となっています。生物エコ部では、「図鑑でしか見たことのない昆虫や植物を実際に見て、触れるのが楽しい」という部員たちが、それらの調査だけでなく、種を採(と)って蒔(ま)いたり、さし芽をしたりして貴重な植物たちを殖やす努力もしています。

また、テニスコート前にある池でも、猪名川流域で生息地が少なくなった植物や魚貝類を育てており、多様な生物が生息するビオトープ池になっています。なんと、イヌタヌキモという食虫植物も生育しているとか。取材にうかがった日には、クラブの拠点となっている社会科教室で飼育している魚たちのエサにするために、部員がこの池からエビを採っていました。「池に入れた植物や魚貝類などは採集地などのデータを記録しているので、万が一その生息地で絶滅しても、戻すことが可能です」と、松本先生。部員は現在4名と少ないものの、環境関係の大学に進学した卒業生部員も多く、充実した活動が実を結んでいるようです。

2008年に発足した環境委員会は、1クラス2名ずつの生徒で構成。屋上でサツマイモを育てる屋上緑化の試みや落ち葉の腐葉土化、ごみの分別などに取り組んでいます。ごみの分別では、環境委員がペットボトルをゆすいでラベルを剥がした上で踏みつぶして圧縮し、業者に回収してもらっています。ちなみに屋上で収穫したイモは、12月にPTA生活委員会と一緒に行う落ち葉集めと枝焼きの日に“焼き芋”になるそうです。さらに、剪定した枝や松枯れで枯れた木は薪にして、PTA主催の校内餅つき大会で燃料として利用してもらうなど、校内から出すごみの減量と資源の循環を進めています。


2013年度に入って部員が11名になり、夏休みには裏山の竹林から切ってきた竹をつかって、PTAの生活委員会とそうめん流しをするというお話しを聞き、お邪魔してきました。これは部員の希望が実現したものですが、餅つき大会同様に裏山などの枯れ枝等の焼却処理とその熱の有効利用や、災害等で地域の避難所になった際に備えた炊き出しの練習、そして、校内の竹林の有効利用、PTAと部員の交流という4つの狙いをもって計画されました。

「今年度の部員はものづくりが好きな生徒が多い」という松本先生のお話しどおり、部員たちがPTAと協力しながら、積極的にそうめんを流す樋を組み立てたり、竹を切ってつゆを入れる器を作る姿が印象的でした。食事の際には、生活エコ部自家製の梅干しや梅ジュースも登場。PTAお手製のデザートもあり、和気あいあいとそうめんや梅干し入りのおにぎりなどをみんなでほおばりました。PTAのメンバーも、「学校の様子もわかるし、生徒とも交流できるのがいいですね」「子どもと共通の話題ができました」と、楽しみながら活動している様子。

暑い夏休み中は、学校の裏庭にあるハーブ園から刺し木をしたハーブを各々自宅で育てて、生徒会活動の援助金にするため文化祭で販売する予定だとか。「ゆくゆくは、子どもさんが卒業しても引き続きサークル活動として刀根山の環境保全に関わっていただきたい」という松本先生の思いの実現も近そうです。

また、最近の生物エコ部は、残したい野草や樹木が外部業者に委託する草刈りでなくならないよう、生活委員会とともに、竹でつくった名札をつける活動を急いで進めているそうです。夏休みには能勢で合宿を行うほか、神崎川で流れ藻を生活の場としているウナギやテナガエビの採集・観察を実施。色々な場所で自然観察を行う機会を持ちました。部員はもちろん、地域にも還元される充実した成果が期待できそうです。

地域とつながりながら

小学校や中学校と比べると、地域から切り離された存在になりがちな高等学校ですが、刀根山高校は地域住民の裏山見学(要事前予約)や自然観察研修を受け入れているほか、環境への取組みを通して地域との連携も図っています。たとえば生物エコ部で作った「春の七草」の寄せ植えを近隣の小学校や幼稚園に提供したり、前述の校内で殖やしたアキノキリンソウの株を地域で育ててもらう呼びかけをしたりしています。また、裏山の維持管理についてはNPO法人「とよなか市民環境会議アジェンダ21」の自然部会から、野鳥の観察調査では地元の「野鳥の会」から指導を受けています。

そして、生活エコ部の部員は、松本先生がかかわる自然保護活動の手伝いなどを通して、さまざまな大人と触れ合うことも多く、「自分では行けないところへ連れて行ってもらえるのが面白い」「先生がしていることは本当に幅広くて、びっくりです」と言いながら、学校ではできない経験を楽しんでいるようです。

地元の生物多様性保全の取り組みについて「まだまだやりたいことがいっぱいありますね」と松本先生は語ってくれました。今後もますます、生物多様性を実感できる貴重なこの敷地は、生徒にとっても地域にとってもさまざまな活動の拠点となっていくことでしょう。

取材日 2012年1月5日